七夜目の真実―Side of Conclusion 5th―
合計6名の男女の失踪事件の主犯が佐倉川亮であることが、新聞をはじめとするマスコミ各誌で取り上げられ、世間は佐倉川の非人道的な行為に怒りと非難の矛先を向けた。そして知る権利を主張する者たちの手により、その生い立ちをはじめとする佐倉川の過去と現在が暴かれ、連日テレビや新聞、雑誌を賑わせている。
佐倉川を産み落としてすぐに命を失った母親のこと。母親と似た面差しを持つ心優しい姉の手で育てられ、父親に顧みられることのなかった幼年期から少年期。義務教育を終えると同時に消息を絶ってしまった父親と姉の責任感のなさ。憶測だけで書かれたとしか思えない3人の家族のスキャンダラスな関係といった類は、夕刊紙や雑誌、ワイドショーの数と同じだけのバリエーションがあった。そして興味本位で書かれた記事や、事実関係のみで簡潔に記された談話などの全てに共通していたのは、孤独の中で成長した佐倉川には人との触れあいや愛情の欠落しており、それが彼を非人道的な行動に駆り立てたという推論のみだった。
そして警察の手で救出された被害者についての情報は、最低限に留められていた。被害者が未成年であったことから、年齢と性別以外の私的な情報が一切公表されなかったため、記事となるようなものを求めて奔走していたマスコミは、佐倉川邸の付近住民に連日の取材攻勢を行っていたという。しかし佐倉川自身が近隣との交流を必要最低限に留めていただけではなく、ここ数年は地域住民との断絶状態に近かったため、ハイエナの異名をとる記者でさえ救い出された被害者についての手がかりを掴むことはできなかった。また生き残った唯一の被害者である飛葉は度重なる事情聴取から解放されたものの、その数日後にはワイルド7の任務に就いていた。多忙な日々を過ごしている間に、世間は善良な市民であるはずの青年が引き起こした、悲惨極まりない連続誘拐殺人事件を徐々に忘れ、他の目新しい事件やスキャンダルへと好奇心の的を移していく。そして飛葉自身も激務に追われていることもあり、地下室の一室で送った日々を遠くに感じるようになっていた。