最強婿養子伝説 第壱拾壱話

──byニシオギ──


譲から託された朔を引っ張って、望美はとりあえず厨へと向かった。

「ねぇ、朔、一体何が……」
あったの?と振り向いた朔は望美の事すら見ておらず、何処か夢見心地だ。
「あの……朔?」
「ねぇ望美……」
「はい?」
「もしかして……もしかしてなのだけど、私、その……」
「なぁに?」
「譲殿に、あ、愛されて……る…のかしら……何て……」
「は?」

望美は固まった。
いや、それはもしかしなくてもそうだろう。

「いや、あの、朔、もの凄く今更だと……」
「でも、やっぱり譲殿は今でも望美の事を……って思う……のは
 どうしようもないのだけど、でもね。今の譲殿を見ていたらね」

時空を越えても恋する乙女は人の話など聞いてはいない。
望美は少々痛み始めてきた蟀谷を押さえながら問う。
夫婦というのは似てくるものだと言うが、その仕草はやけに弁慶に似ている。それはさておき。

「朔、どうして譲君が私の事を好きだって思う訳?」
「だって……譲殿は二言目には先輩先輩って、望美の事」
「そっ、そう?」
「そうよ!食事をすれば『朔は余り食べないですね。先輩なら3杯はおかわりしますよ』とか」
「えっ?」
「着物を仕立てれば『先輩は自分の着てる着物も一緒に縫ってましたね』とか」
「はぁ」
「挙げ句の果てに『俺はそんな妙なもの作りません。先輩じゃあるまいし』とか言うし!」
「…………」

何だそれは。

「それに、ヒノエ殿が」
「ヒノエ?」
どうして其処にヒノエが。
「私の事、最近 ”月の姫君”とか言うし……
 ねぇ、望美、私はそんなに移り気な女に見える?譲殿も……そう思っているのかしら…って」
そう言って小さく溜息をつく様は愛らしく、女の身から見てもヒノエの気持ちが解るというもの。

それにしてもヒノエ……あれ?……誰かを忘れていないだろうか。
「あ、そう言えば九郎さんは?さっきから話に出てこないけど」
「九郎殿?どうして其処に九郎殿が出てくるの?」
「いえ……」
心底不思議そうな朔に、望美はあの時蹴りが良い角度に入ったなどと思って悪かったな。と思う。
「あっ……そういえば」
「何?!やっぱり何かされたの?」
「九郎殿が、あの時譲殿は神泉苑の方から歩いて来たって……。
 望美…どうしよう。譲殿、誤解をしているのかも知れない……」
「誤解??」

さっぱり訳が分からない望美だったが、涙目で縋る様に見詰められ、思わず、
「まぁその……これは譲君も悩む訳だわ」
と零れた呟きに、
「えっ……譲殿は、望美にも悩みを相談しているの?」
と、朔の瞳が見開かれる。
「はっ?えっ?違うよ違う。相談っていうか……見れば解るし……」
その言葉に朔は益々混乱する。

どうしたものかと、望美は頭を抱えつつ、
「ねぇ朔。誤解とか私の事がどうだとかは良く解らないのだけど、
 私が今好きなのは……そのさ、弁慶さんな訳だし」
直線的な物言いに、今度は朔の時が止まる。
「や、そこで朔が照れないでよ恥ずかしいじゃない!じゃなくて、朔が今は誰が一番好きかって話よ!」
「そ……そんなの決まってるじゃない!好きでも無い人と夫婦に何てならないわ!」

そう言い切った朔の後ろに、人影があった。


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