最強婿養子伝説 第弐話

──by司書──


譲が家人から慕われ、信頼されつつあるのは喜ばしいことだ。
それは十二分に分かっているはずなのに、素直に歓迎できない自分がいる。
当初は些細な戸惑いでしかなかったというのに、最近は自分でも持て余してしまう。
そんな自分の子どもっぽい言動が恥ずかしく、朔はついつい譲を避けてしまっていた。
そして不甲斐ない自分への苛立ちと嫉妬を、取り敢えず兄の景時にぶつけてしまう。
そう、これは八つ当たり以外の何ものでもない。
他の誰でもない朔自身が痛いほど承知しているだけに抱く自己嫌悪は強く、
けれど、どうにもできないことがただ、口惜しかった。

忙しく暮らすことで自分を誤魔化していた、そんなある日、朔は屋敷の掃除に精を出していたのだが、
景時の私室の乱雑さに抱え込んでいた苛立ちが臨界点を突破した。

「兄上!! 使い終わったものは元の場所に返してくださいと、あれほど言っているではありませんか!!」
「ああ、朔、ごめんね。今、やろうと思って……」
「いつもいつも同じ言い訳ばかり。兄上の“今、やろう”なんて、あてになりません!!」
「ゴメンね、朔」
「私に謝っていただかなくても、結構です。さぁ、お部屋を片づけてください。早く! 今すぐ!!」
「あー、わかった、わかった。わかりました」
「お返事は一度で充分です」

そそくさと部屋に散らかったものをかき集めながら、つい景時は呟いてしまった。

「譲君と喧嘩したからって、俺に八つ当たりしなくても……」
「兄上……今、何ておっしゃったの?」

暗い目で景時を見遣りながら、低い声で問う朔。あまりの迫力に、息を呑む景時。
そして、長いような短いような沈黙の後、朔は泣きながら邸を出奔した。

「兄上も譲殿も、大嫌い!!!」
と一言だけを残して。


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