森安先生の語録(1)

ここでは僕の恩師、森安芳樹先生が常々おっしゃっていたことを
自分なりにまとめていくつか紹介してみたいと思います。


 
1)死ぬ気で弾け!!弾けなきゃ死ね!!

 一つの音を出すのにもそのくらいの覚悟がいるということです。出来るはずのことが出来なかったりした時、
 先生は非常に厳しく、集中力や注意力が散漫な弟子は容赦なくレッスン室から追い出されることも・・・
 

2)音楽家とは、新聞や小説を読むのと同じくらい、あるいはもっと速く、
  楽譜をスラスラ読める人のことを言う!!

 ただ楽譜の上っ面を読めるということではなく、その奥深く、テンポから表情からその音楽自体を楽譜から
 読める、あるいは聴ける、という能力を普通に活字を読むごとくこなせるよう身に付けた者が音楽家である。
 

3)Wer etwas grosses leisten will,
   muss tief eindringen, scharf unterscheiden,
    vielseitig verbinden, und standhaft beharren. (Schiller)

 大事を就さんとする者は、
  徹するに深く、辨(べん)ずるに鋭く、
   獵(か)るに廣(ひろ)く、持するに剛なるを要す (シラー)

 つまり、なにか大きなことを成し遂げようとする人は、
  物事を徹底して、判断を鋭く、別々なことをサッと結びつけて考えられ、そして辛抱強いこと
   が必要だということである・・・因みに最後の辛抱強い・我慢強い、というのが一番大変なのだそうです。
 

4)練習する時はその事に没頭し、遊ぶ時は遊ぶ、寝る時は寝る、食べる時は食べる!
  何をするにもパッと気持ちの切り替えをし、その事に集中、全力を尽くすこと!

 厳しいレッスンが終わった後、なかなか気持ちを切り替えられずにショボくれていた僕によくこう仰いました。
 人生をフル活用されていた先生らしいお言葉だと思い、今も事あるごとに実行すべく努力はしておりますが…
 

5)語学は必ず身につけなければいけない!会話なんか出来なくていいから読めること
  が大事!誤訳が多い世界だから、原語で正確(!)に読めることは必要!!
  ヨーロッパの原語、基礎となるギリシャ・ラテン語も学書を読む上で必要!!

 学者的な仕事をたくさん為されていた先生は、その性格上これらの必要性を強く感じて会得されたに違いない。
 実際にヨーロッパの原語のみにとどまらず、ロシアやインド、そして中国の言葉にも卓越しておられました。
 ただ、演奏活動をする我々にとって、それから21世紀を生きる人間にとっては今後ますます国際化は進むと
 思われるので、会話力も習得すべきでしょう(笑)。因みに「読む」ということは、書いた人間の癖や間違い
 まで考慮に入れて、なおかつ文章の裏で何が言いたいのかまで読み取ることだそうです(汗)
 

6)様々なことに関心を持ち、視野を広くすること!!

 これは音楽家に限らず・・・。そのままですので、特にコメントすることはないです(^^;
 

7)様式や演奏法、時代や作曲家によって違うことなどを、深く知っていなければ
  ならない!間違ったことを平気な顔してやっていてはいけない!!

 正しく楽譜通り(楽譜には必要最低限のことも書かれていなかったり、作曲者本人のうっかりなどもあるので、
 本当に読み、解釈するには深い勉強をしなければいけない)弾いた上で、つまり同じ土俵の上で勝負した上で、
 テンポや音色、歌い方などに個性があるから面白いのである。
 古いものほど、しきたりがあったり、手稿が残っていなかったりして難しい!!綱吉のころの手紙を読んでも
 わからないごとく、実際には楽譜の読み方も完全にはわからない!・・・らしいです。
 ただ、いい加減に気分だけで弾いているのと、できる限りの研究をした上での演奏とでは雲泥の差があります。
 

8)演奏に納得がいかない、弾けない部分がある時、どこに問題があるのか瞬時に判断
  して、その改善の為にどういった練習をすべきか、また実行できるか、その全てを
  含めて才能という!!

 これはピアノを弾く上で直接身近な問題です。例えば、問題の箇所の部分の前、あるいは後が不安なために、
 その箇所で注意力が希薄になる、従って不安な部分を解消することで問題の箇所も解決される、といったように
 種々のケースに見合って、その状態を正確に把握できることが必要なのです。そして、どうしたらいいのかが
 わかっても実際にその練習を当たり前のようにこなせるということが大事で、それこそが才能なのです。
 

9)さらう時、方法が悪いのか、あるいはいい方法なのにやる分量が足りないのかを
  考える!!

 実際ほとんどのケースは後者、すなわち何をすべきかまではわかったが、実行に移した時にその絶対量が足り
 ないがために問題の解決に至らない、というパターンだそうです。やはり基本的にある分量をこなす、という
 のは絶対に必要なようです。
 

10)量の変化はいつの間にか質をも変える。

 9)に関連した言葉だと思います。ちょっと試してみてすぐに別の方法に切り替える、というのはもちろん発想
 の豊かさという面では大変優れたことだと思いますが、良薬が効果を表すはある程度の時間も必要なのです。
 3)の最後の「我慢強く」というのがここにも当てはまります。方向性に自信があれば、根気を持って分量を
 重ねることが大事です。そして最終的にそれは小さな部分だけではなく全体の質をも改善することに繋がります。