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蜘蛛のいと
1997制作、高さ268.5(cm)ブロンズ・ステンレス
蜘蛛のいと(下部分)


 芥川龍之介が書いた小説を下敷きにした作品です。

 悪行のかぎりをつくした男が、死んだあとに地獄に落とされました。

 ところが彼が生前に一匹の蜘蛛のいのちを助けていたことを知った

お釈迦さまは、最後のチャンスを与えようと、天上のおおきな蜘蛛に

命じて一本の「蜘蛛のいと」を地獄に降ろさせました。

 男がそのいとにしがみつき登り始めたところ、彼のあとから地獄の

亡者どもが、ぞくぞくとついてきてしまいました。

 細い蜘蛛のいとは今にも切れてしまいそうになり、男は、「ここで

切れてしまってはたまらない」と思い、自分のすぐ下でいとを切って

しまおうとしました。その瞬間、蜘蛛のいとは、男のすぐ上で切れて

しまい、男は亡者ともどもふたたび地獄へ落ちてしまいました。

 これに似た話は、ロシアをはじめ世界各地に見られるということです。

 私は、この作品に生命が誕生する生殖の瞬間を重ね合せた意味を

持たせています。