焼き芋に見る、それなりに複雑な人間関係


 ワイルド7のメンバーは全員、法を笠に着て悪事を重ねる輩と対峙する時には、僅かな躊躇もなく拳銃の引き金を引き、地獄の入口の扉を開いてやるのが常である。身に覚えのある人間は皆、確実にターゲットを追いつめ、悪党を亡き者にする彼らを恐れていたし、同じ警察という機構の中にあっても、彼ら7人は同胞から見れば蛇蝎のような存在でもあった。また極悪非道の凶悪犯、或いは悪質な犯罪者であった彼らにとって――例え現在は警察組織に属し、様々な悪と格闘していたとしても――社会は冷淡なものでしかない。彼らの本質を知る者は皆無ではなかったが、それは僅かなものであった。それ故、ワイルド7のメンバーは彼らに信頼を寄せる人間に対してだけは優しく、その信頼に応える時には生命さえ投げ出すような面がある。もちろんその傾向は、ワイルド7のメンバーに対しても同じだったし、任務から解放されている時にも行動を共にすることが少なくない。

 最年少にしてワイルド7のリーダーを務める飛葉は、任務の時には他のメンバー全員から一目置かれている存在ではあるが、プライベートではいつも子ども扱いばかりされている。このように彼らは任務に際して発揮されるそれぞれの能力に敬意を払ってはいたが、任務から離れている時にはかなりラフな付き合い方をしており、特に食べ物が絡んだ時に顕著に表れるものだった。

◇◇◇

 この日、彼らは共同で借り受けているガレージの大掃除をしていた。彼らは任務時やプライベートで乗っているバイクの収納や、そのメンテナンスのために10坪ほどのガレージを借りていたのだが、いつの間にかバイク以外のものが放り込まれてしまい、バイクのためのスペース以外は実に雑然とした、混沌とした状態になってしまっている。

 ことの発端はこうだった。チャーシューが春先にガレージに持ってきた電気コタツを出そうとしたのだが、その後に放り込まれた様々な家電やレジャー用品、雑貨や数え切れないほどのガラクタが山のように積まれていたため、目的のものが取り出せなくなってしまった。そこで彼はメンバーの溜まり場になっているスナック『ボン』に行き、コーヒーを飲んでいた飛葉とヘボピー、チャーシューの動員した。4人で山のようなガラクタと格闘すること小一時間。ふらりと八百とオヤブンが現れ、それからすぐに、『ボン』でメンバーがガレージにいることを聞いた両国が加わった。

 奥まった場所にある電気コタツを出すために、その障害となっている物品を全てどこかやるという作業に彼らは集中していたが、お世辞にもガラクタとも言えないような代物も多く見つかり、彼らの作業は大掃除へと変貌を遂げた。次から次へと出るゴミの中で、燃やせるものはこの場で処分することになり、ガレージの前では焚き火が始まる。

「ちょっと、ションベン」

そう言ってどこかへ消えた飛葉が十数分後には戻り、焚き火の前で何やらゴソゴソとしていたが、その行動を気に留める者は特にない。

 ガレージ内の整理が一段落し、彼らは焚き火の前でくつろいでいた。煙草を切らした世界が煙草屋に向かい、ガレージに戻る途中でワイルド7の生みの親でもあり、彼らのヘッドでもある草波と顔を合わせた。二人は挨拶程度の言葉を交わしただけで、無言のままガレージへと向かう。そして彼らがガレージに到着した時、その前の焚き火を囲んで6人のメンバーが騒々しい声を上げていた。

「奴等は何をしてる?」

草波が呆れたように言う。

「さてね。10分ほど前は静かなもんだったんだが……」

世界が目を細めて焚き火の方向に目をやった後、飛葉の名を呼んだ。飛葉はジャンバーの裾に両手をしまい込んだまま世界と草波のもとへ来ると、神妙な様子で草波と世界の顔を交互に見比べた。それから何秒か考えるような素振りを見せた後、懐から焼き芋を2本取り出した。

「隊長。あんた、今日は運がいい」

飛葉は草波に焼き芋を一つ手渡し、残ったほうの芋を割る。二つに割られた芋を見比べた後、飛葉は大きい方を世界の手に押しつけた。

「早く食ったほうがいいぜ。俺が焚き火に放り込んだ芋は6本しかねぇんだ」

「あの騒ぎは、焼き芋の取り合いか」

世界が言った。

「そ。俺が2本、分捕ったのをヤツらが知ったら、ただじゃ済まないぜ」

飛葉がそう言って笑う。世界は溜息をつき、飛葉の手にあった芋と自分の分を交換した。

「殊勲賞だ」

「いいのか? 悪りぃな」

飛葉と世界のやりとりを見ていた草波が、

「こんな低級な争いをして、よく恥ずかしくないものだな」

と、呟いた時、ヘボピーが大きな足音をたててやってきた。

「おい、飛葉。お前、何本芋を持っていきやがった」

「2本」

「何だとぉ?! 1本俺に寄越せ」

飛葉はヘボピーのほうに顔を向け

「芋が食いたきゃ、隊長に分けてもらえよ」

と、笑う。ヘボピーは草波と世界、飛葉の手にある焼き芋を見比べると、大袈裟な仕草で溜息をついた。

「食べはぐったか……」

飛葉は手にしていた焼き芋を更に半分に割り、ヘボピーに差し出した。

「しょうがねぇな。半分やる。俺っていいヤツだよな」

飛葉の言葉が終わるか終わらないかのタイミングで、ヘボピーが飛葉の頭に軽く拳を入れる。

「ケッ、何言ってやがる。お前が最初から人数分の芋を買ってくりゃ、こんなことにはならなかったんだ」

「しょーがねぇだろう? 八百屋の店先の篭に入ってたのは、あれっきりだったんだからよ。」

それから飛葉は、ヘボピーの焼き芋に手を伸ばした。

「文句があるなら、それ返せよ。俺が世界にもらった芋だぞ」

「うるせぇな。一度誰かにくれてやったもんを取り返そうなんざ、了見が狭いんだよ、お前は」

そう言ってヘボピーが焼き芋をかじる。

「はん! 図体だけじゃなくて、性格までかわいげがねぇみてぇだな、お前ってヤツはよ」

飛葉がヘボピーの背中を肘で小突き、焼き芋にかじりついた。

 世界はそんな二人に笑いながら何かを話しかけ、焚き火の側にいる仲間の所へ戻り、草波は憮然とした表情で焼き芋を食べながら、それを眺めていた。


草波と世界、飛葉間の焼き芋流通形態とその分量で
彼らの人間関係を表したいと考えたんです(笑)。
丸々一個渡すのと、半分こ。
どっちのが飛葉にとっては上等な対応なのかは謎。
ただ、草波は世界とヘボピーがちょこっと羨ましかったはず(笑)。


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