視 線


 ガキの頃から悪さばかりしていた俺が少年院送りになったのは、不思議でも何でもなかった。シャバにいた頃は始終むしゃくしゃして、目に映る全てのものをたたき壊すことばかり考えていた。人のものを盗む ことにも、誰かを傷つけることにも罪悪感を持ったりはしなかった。俺はただ、何か確かなものがほしかっただけだった。だけど、何も残らなかった。少年院に放り込まれた時も、何も感じたりはしなかった。シャバも鉄格子の中も俺にとっては何の変わりもない。少々臭うのには困りものだが、とりあえず毛布と寝床、それから豚も食わないような不味い飯でも、自分で調達しなくてすむ分、俺にとっては楽なもんだったんだ。

 あの日は雨が降っていた。俺は習慣通りに少年院を脱走した。いつもと違っていたのは新入りがついてきたことと、アイツに会ったことだった。


  あの夜、少年院に出入りしているパン屋のトラックに忍び込んだ。俺たちは街に着くまで少しはのんびりできると考えた。だけどトラックは何者かに攻撃されて、俺たちは壁板の剥がれた、汚い納屋に逃げ込んだ。そこには壊れたバイクが3台、俺たちを待ち受けるかのように転がっていた。すぐに走れるバイクは新入りが先に乗っていきやがった。俺は残りの2台をばらし、使えそうな部品を適当に組み合わせて、どしゃ降りの外へ出た。大雨で流されかけていた橋をどうにか渡りきった時、突然目の前のぬかるみが爆発した。俺はとっさに爆風を避けた。すうるとその先には鉄条網がくくりつけられた丸太が転がってきやがる。どうにか、こうにか丸太をやり過ごした先には貨物列車が猛スピードで近づいてくる線路があった。ブレーキをかけられるような 距離じゃなかった。後ろからは爆弾が追っかけてくる。俺はタイミングを計り、貨車と貨車の間にバイクを引っかけた。助かったと思った。この騒ぎで俺はもう、死んだことになっているはずだ。これからまた、外で自由に生きられる。そう思ったんだった。

 貨物列車の終着駅で俺を待っていたのは自由ではなく、アイツだった。ヘビのような冷たい目をしたアイツは、俺にワイルド7のメンバーになるよう命令した。逃げ延びるために必死だった俺の前に次々に現れたものはみんな、俺を試すための試験だときやがった。どうりで都合良くいろんなものが出てきたはずだ。アイツが示した俺に残された道は二つ。ムショに死ぬまで放り込まれるか、アイツの下で働くかのどちらか。選ぶ自由は残されていたが、本当の自由はなかった。

そして俺はワイルド7の一員になった。

 ご立派な階級と思う存分改造したバイクと銃を与えられ、気に入らねぇ連中を退治するのは性にあった。仲間とも気が合った。だけど一つだけ気に入らねぇことがある。人を人とも思わねぇアイツだ。アイツは俺たちをバイクのパーツか何くらいにしか考えちゃいねぇ。

 アイツはいつだって、俺を見ている。任務の時も一人でいる時も、いつだってアイツの視線を感じ る。氷のように冷たいクセに、身体に電流が走るような嫌な視線だ。誰かに監視されるのは性に合わねぇ。アイツに協力するとは言ったが、アイツの手駒になる気はない。仲間を裏切るつもりはない。けどアイツは別だ。隙を見せたらすぐに目にもの言わせてやる。

 そうさ、いつだって逃げ出してやるんだ。シャバに出てから何人も、数え切れないほど悪人を地獄に送ってきた。悪人を皆殺しにしようと考えてるような悪人のアイツを殺すことなんて、今の俺には造作もないことだ。

  だけど今はいいさ。アイツの掌の上で遊んでるふりをしておいてやる。胸くその悪い視線にも我慢してやらねぇこともない。けど、もしもアイツが俺たちを裏切るようなこと真似をしやがったら、その時はアイツを殺す。容赦はしねぇ。俺は俺のしたいようにするだけだ。それが俺に残された、最後の自由なんだ。





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