望美のお祝い

──byニシオギ──


「本当に、望美の気持ちは嬉しいわね」

にっこりと微笑みながらも、心なしか”は”に力が入っているのは気のせいだろうか。
祝言を上げたばかりの朔と譲の前には、
望美が心を込め、………そして腕が伴わなかった呪い、いや祝いの品。
割烹着……らしきものがあった。

「そうですね。何度失敗しても挫けず挑戦するのも、先輩の良い所です」
二人穏やかに微笑み合うが、随分酷い事を言っていないだろうか。

「端切れが縫い付けてあるけど……これは譲殿の世界の装飾なの?」
見ると、何とかVOLEと読めそうな文字がある。ちなみにVOLEは野ネズミだ。

「ああ、その、これは多分”LOVE”と見せたかったんじゃないかな」
「らぶ?あっ、将臣殿が良く”らぶらぶ”とかおっしゃってますよね?
 この様に書くんですか?望美からは”とても仲好し”という意味だと聞きましたけど」
「う〜ん。まぁ、意味は間違っては無いかな。この様には……多分書かないけど」
「では、正しい書き方を教えてくださいね」
「ええ、勿論」

それから朔は、一寸何か考える風の表情を見せると、
「譲殿、それではこれからも”らぶらぶ”してくださいね」
と、微笑んだ。
「えっ……」
「あら?この様な使い方をするのでは無いのですか?」
「あっ、いや、また兄さんが余計な事朔に吹き込んだのかと思って」
「余計な事……ですか?将臣殿には色々と譲殿の世界の事を教えて頂いていますが」
やっぱり兄さんか、と譲は内心溜息をつく。
「朔……その、俺が言うのも何だけど、兄さんの言う事を鵜呑みにしちゃいけない」
「何故ですか?将臣殿は聡明な方だと思いますけど……」

確かにある意味聡明と言えなくも無いのだろうが、
朔に吹き込んでいる事は明らかに趣味が入っている。
祝言に駆けつけてくれた事は、感謝をするべきなのだろうが、
何だろうか。あの喜びぶりには違う意味合いを感じてならない。

「それにしても、この……割烹着…は随分良い布を使っているみたいですね?」
どうしたものかと苦慮していた譲が、朔の声で我に返る。
「ああ、確かヒノエが熊野大社への献上品の中からくすねたとか何とか……」

素材は最高であるその品を見詰め、二人は暫し無言となる。

「…………罰があたらないかしら」
「大丈夫ですよ。あたるならヒノエにあたるから」

それはそれとして、そろそろ休みましょうなどという二人は、
傍目にも大層お似合いであるのだが、
二人が本当にとても仲好くなる為には、乗り越えなければいけない壁があったのである。

── 完 ──


「弁慶さん、これ、やっと出来たの!二人共喜んでくれるかなぁ?」
「ええ、勿論ですよ望美さん。貴女の気持ちはきっと伝わります」
ここでも”は”に力を籠められてしまう望美なのでございました。
景時にあげる匂い袋を作った時の朔の微妙な反応に、つまり低いのは料理スキルだけでは無いのだなと(笑)

遠方より祝言に駆けつけ殊の外喜んでいた将臣に、朔は思わず信頼感を強めてしまったそうですよ。ええ。


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