漁夫の利 3


 泥のように眠ったせいか、意識は覚醒しているというのに瞼がなかなか開かない。いつもの習慣で朝餉の用意をしようと身を起こそうとした途端、激しい頭痛に襲われた。

「…………いて……」

気がつけば胸の辺りが重苦しい。自分の身に一体何が起こったのだろうかと逡巡しているうちに、兄・将臣に六波羅の邸に連れられていき、そこでしたたかに酒を呑んだことを思い出した。頭痛の原因は二日酔い、では胸の不快感は何だろうかと、ようやく開いた瞼に飛び込んできたのは、知盛のでかい足。よりにもよって、変態ストーカーの足がと心の中で毒づきながら、乱暴にその足を払いのける。

「う……朝……か……」

ゆっくりと起きあがる知盛も頭を押さえているところを見ると、彼もまた二日酔いであることが知れた。ふと周囲を見回すと、将臣が大の字になって転がっている。譲は重い身体を引きずりながら、乱暴に兄を揺り起こす。

「うー、頭、ガンガンする……譲、水……水くれ……」

「自分で汲んでこいよ、兄さん」

「冷てぇな、おい」

「俺だって二日酔いなんだよ……初めての酒で……情けない……」

「有川……お前ら朝からうるさいぞ」

頭に響くと知盛が呻いたすぐ後に、爽やかな声が聞こえた。

「おはようございます、皆さん。白湯をお持ちしましたよ。さぁ、お飲みください。朝餉も間もなく運ばれてきますから、さぁさぁ」

「経正……さん?」

「はい、譲殿。白湯をどうぞ」

笑顔に押され、譲は礼を言いながら差し出された湯飲みを受け取った。

「お前ら……マジで酔ってねーな」

「はい。私達は怨霊ですからね。二日酔いとも無縁のようですよ」

「敦盛さんは……」

「梶原殿の邸に、将臣殿と譲殿がこちらにお泊まりになると伝えに行かせました。皆さん、ご心配になるといけませんから」

それから経正は甲斐甲斐しく、二日酔いに苦しむ生身の男達三人の世話を焼いてくれた。その厚意に甘えながらというか、遠慮することさえできずに従うしかない将臣と知盛、譲の三人は、酒が完全に抜けるまでの間、ひたすら怠惰に徹したのであった。


二日酔いは若者の勲章です(笑)。
経正は白い割烹着なんか似合いそうですね。
経正と敦盛の二人が切り盛りする小料理屋って、いいなぁ。
毎週金曜日は琵琶と笛のセッションしてもらったりしてねぇ。


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