大福マン作戦 2


 「大福マン作戦」は予想以上の結果を出し、源氏軍は末端の兵士までが意気を取り戻した上、志気の向上も相当のものとなっている。連日、術を使う景時の消耗は軽くはなかったが、「大福マン」の活躍は兵士達の疲労軽減に大いに役立っており、彼らの支援で末端の兵士までも何とか休養も取れた。鎌倉の頼朝の覚えもめでたいようで、九郎は素直に喜び、景時や弁慶らも安堵の息を吐いた。何よりも、沈鬱この上なかった陣に活気を取り戻したことが、八葉達にとって喜ばしい。故に昨今の軍議も活気づいている。

「大福も良いんだけどね、譲君?」

「何ですか? 先輩」

「こう……そろそろ、しょっぱいものも良いかなって」

小首を傾げ、望美が譲を見た。

「ほら、甘いものが続くとね? しょっぱいもの、食べたくなるじゃない? カレーパンとか焼きそばパンとかコロッケパンとか。あ、大福に飽きたっていうワケじゃないんだよ? 大福は大好きだけど、もっと美味しく食べるにはね、ちょっと違う味もいいかなって」

「先輩のリクエストに応えるのは難しいですね……弁慶さんが持ってるウコンとかの薬を使わせてもらえば、カレーくらいなら作れると思いますけど、それなりに大量に使いますから……」

「怪我人や病人が耐えないですし、できれば“かれー”は避けてほしいですね」

「生薬は貴重品ですからね、弁慶さん。そういうわけですから、先輩。代わりに味噌味の焼き餅や焼きおにぎりはどうですか? あと、古漬けを煮て細かく刻んだものを小豆餡の代わりに入れたりとか。大福よりも保存性も高いですから、多少の作り置きもできますよ」

「そういうの、できるの? 美味しそーーー!! 食べたい! 作ってよ、譲君!!」

「望美。譲や朔殿は、お前に食べさせるために“だいふくまん”を作っているのではないんだぞ。だいたい、今は軍議の最中であって……」

眉を寄せた九郎が望美を窘める横から、ヒノエが口を挟む。

「まぁ、待てよ、九郎。塩っ気の強いものを出すのは、案外と妙案かも知れないぜ?」

「確かに塩は鋼に錆を呼びますし、攻撃を受けた時に味噌や漬け物が僅かでも飛散するように調整すれば、武具もきっと扱いづらくなりますよ」

そんな調整くらいできるだろうと言いたげに、ヒノエの言葉を受けた弁慶が景時を見た。

「ははは……頑張るよ、うん。できるだけ……」

「“できるだけ”では困りますわ、兄上。結果を出していただかないと」

「大丈夫だよ、朔。景時さん、ずっと結果、出してくれてるもん」

「神子、お前達の選択は、いつも正しい。信じる道を進みなさい」

リズヴァーンがいつもの言葉を口にすると、一同は皆、安堵の表情を浮かべた。

「あの……いいだろうか……」

そこへ、軍議の成り行きを見守っていた敦盛が言う。

「塩は邪気を払う力を持つと言われている。塩に、神子と朔殿が祈りを捧げ、清めてはどうだろうか……怨霊には……効果があると思う」

物静かで控えめながら、実は強い力を持つ怨霊でもある敦盛の説得力のある言葉に、源氏の次の作戦は決まった。

◇◇◇

 聞き慣れた騒々しい足音に、将臣は最高に不機嫌であろう知盛の到来を知る。今度はイチゴ大福か、それともクリーム大福。プリン大福もいいけど無理だろうなどと考えている将臣の前に、予想通りの表情で知盛が風呂敷包みを投げつけた。

「次は……焼きおにぎりに、お焼き風の餅か……美味いな、漬け物の煮付け。いい味じゃないか、こりゃぁ」

 前回と同様、何の躊躇もせずに味見を決め込む将臣を忌々しげに見遣りながら、

「随分な余裕だな、還内府どのは……」

と、言い捨てる。

「これなら、胸焼けせずにすむだろう。 何か問題があんのか?」

「ある。実に……厄介なことが、な」

 知盛が言うには、今度の焼きおにぎりと餅は衝撃を与えると四散するという。多少の規則性があれば防御や退避もできるが、味噌だのみじん切りの漬け物が飛び散る時機がわからなければ、その勢いも予測できない。中には全く動じない、太刀や弓で粉々にしなければならないものもあり、最前線では対応に苦慮している。

「おまけに武具が錆びる。太刀も弓も長刀も鎧も兜も、何もかもだ。飛び散った味噌を拭わせても、追いつきやしねぇ」

「敵も、考えたもんだ」

将臣の呟きに、知盛の表情に険しさが増す。

「こんなもんを出してきたのは、高価な蜜や飴が尽きてきたからかと思えば、おそらくは武具を使えなくする思惑もありそうだな」

しかも胸焼け対策と同時に。源氏方の軍師もなかなかの策士だと感心しつつ、

「あと二日、もたせてくれ。さっき、御上が安全な場所に落ち着かれたとの連絡が届いた。あと二日、いや、一日でいい。それだけ稼いでくれれば、後続も安全に移動できる」

と、将臣が言う。

「この俺にしんがりを任せるなら、三日は堅い」

唇の片側だけを引き上げて、知盛が応えた。

「ああ、頼りにしてるぜ」

「最後の最後に“らすぼす”とやらのご登場を願うとするか。胸焼けと太刀の錆びを倍にして叩き返してやろう」

 先刻までの不機嫌さはどこへやらといった風情で、知盛は将臣の幕屋を後にする。その背中を見送りながら将臣は、不思議と懐かしい味のする焼きおにぎりを頬張りながら、平家一問を一人でも多く救うべく、彼の知る歴史の裏をかける策を練るのであった。


「u-topos」の下館かたほさんに捧げます。
かたほさんの日記のネタに便乗させていただきました、
愛と勇気だけがお友達の正義のヒーローネタです。
適当な時代考証を加えて、大人の事情を回避してみたのですけれど(笑)。

ジャムなおじさんの譲は案外と、どんな時代でも有能なのだと再認識しつつ、
味見係の白龍(小)と望美は、厨房で朔に窘められていると可愛いなぁとか、
まぁ、そんな感じで(笑)。


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