青い春のガンパレード・マーチ その2


 つまり、こういうことだ。

 滝川が士魂号の調整を済ませた後、日課のトレーニングをしていたところへ若宮が通りかかり、効率の良いトレーニング方法を伝授してくれることになったのだ。新兵や兵士候補生の指導係を務めていた若宮はコーチとしては最適の人物である。その的確な指導や身体の動きの些細なチェック。それらを元にした動きのアレンジは見事なもので、戦車兵となって士魂号に乗り込んでいる滝川と速水、壬生屋、芝村の4名は、2151小隊発足時と比べると遙かに戦士らしい体つきになっている。むろん、スカウトとして共に戦場を駆け抜ける若宮・来須の両名は肉体そのものを武器としているだけあり、当初から速水と滝川の憧れの存在であるだけでなく、今はまだ遙か遠くにいる目標とする人物でもある。それ故、速水と滝川はスカウトの二人と訓練を共にすることも多い。そして、その日も普段と変わりなく訓練が行われていたという。

 しかし限界ぎりぎりまで肉体を酷使してしまった滝川が軽い肉離れを起こしてしまったのだ。それが全ての発端となった。

◇◇◇

「俺は平気だったんだ。ほんのちょこっと痛いくらいで、一晩寝たら治りますって若宮さんに言ったんだ」

滝川が言った

「若宮さんは責任感が強い人だから、滝川が心配だったんだね、きっと」

速水の言葉に滝川は頷き、

「湿布をしたほうがいいって詰め所に連れてってくれて、でも石津はもう帰っちゃってて、それで若宮さんが手当をしてくれたんだ」

そう言うと滝川は唇を噛んで黙り込み、速水は静かに滝川が言葉を継ぐのを待つ。数分後、

「トレーニング方法を変えたから、何か筋肉があちこち堅くなってるからって、若宮さんがマッサージしてくれることになって、でも若宮さんは俺たちの先任だし、先輩だし、年上だし、それに教えてもらってる立場なんだし、断ったんだ、何度も。でも……でも若宮さんは俺が肉離れ起こしたのは自分の責任だからって……それに肉離れはちゃんとしとかないと癖になるからって……」

「マッサージ、してもらったんだ」

滝川は激しく首を縦に振る。

「でも、それだけでどうしてHな雰囲気になるの?」

速水が首を傾けて問うた。

「だって……だってよぉ、若宮さんのマッサージって、すんげぇ気持ちいいんだもんよぉ!! んで、ふわ〜って気分になっちゃって、そしたら……あっちの方も気持ちいいって感じになっちまって!! 俺は若宮さんに知られないようにしたんだけど、でも見つかっちまって、そしたら……そしたら……!!」

半泣きになりながらも茹で蛸のような顔をした滝川が、速水の両腕を強く掴んだ。

「若宮さんがパンツの上から握ったんだ」

 その言葉を聞いた速水の顔から表情が消え、抑揚のない言葉が唇から紡がれた。

「まさか……」

「そうだよ、俺は若宮さんに擦られちゃって、いっちゃったんだ、俺」

観念したかのように言い捨てた滝川は一度だけ速水と視線を合わせると、すぐに遠くを見つめた。

「その後さ、なんか、お互いに妙な気分になっちまったらしくて、こう……擦りっこしちゃったんだ。その……アレだよ。Hな雰囲気に流されちゃったみたいな、その場のノリでやっちゃったみたいな……。若宮さんは男ばっかり集まってる軍隊じゃ珍しくないことだから気にするなって言うんだけど、そうもいかなくてさ」

「うん……やっぱり恥ずかしかったりするよね」

「違うよ、速水。俺が悩んでるのはそんなことじゃないんだ」

速水に視線を向けた滝川の瞳は暗い。

「恥ずかしいより俺、あれから若宮さんの顔を見たら心臓がバクバクして、膝が震えちゃうんだよ。わかんねーよ、俺。若宮さんと二人っきりになったらHな雰囲気になるのに、女子だったら全然平気なんだよ。俺……俺……どうしよう、もしかしたら擦りっこした時に何かの拍子でホモが移ったのかもしんない。女の子とキスもデートも手をつないだこともないのに、ファーストキスだってまだなのに、先にHな雰囲気になって、あんなことになってさ……なぁ、俺、どうしたらいいんだよ、速水〜」

「そ……そんなこと言ったって、僕だってわかんないよ」

すがりつく滝川の背をなでながら、速水も悲痛な声を上げた。

◇◇◇

 二人はしばらくの間無言だった。

 先に速水が沈黙を破る。

「僕たち二人じゃあどうしようもないのは確実だから……そうだ、委員長に相談してみたらどうかな。委員長と若宮さんは前の部署でも一緒だったみたいだし、軍隊での経験も僕たちよりも長いから、きっといいアドバイスをしてくれると思うよ」

「やだ! 若宮さんと委員長が親しすぎるよ。それに……それに委員長にこんなことが知られたら、若宮さんが異動させられるかもしれないじゃんよ。若宮さんには悪気なんて全然なかったんだから、そんなのは絶対にだめだ」

「じゃ、来須先輩は? 先輩も兵士としての経験は僕たちより……」

「絶対にやだ!! 憧れの先輩にこんなこと知られたら、俺、どうしたらいいかわかんないよ!! もう、学校に顔も出せなくなるって」

「そんなこと言ってたら、坂上先生しか相談相手がいないよ? 女の人にはさすがに相談できないし……」

「じゃぁ……じゃぁ俺は、ずっとこのまま若宮さんと会うたびに心臓をバクバクさせて逃げ回んなきゃならいのか……」

失意状態のまま何ら浮上の気配も見せない滝川の肩に手を置いた速水は、同じように絶望的な気分を抱えながら、善後策に考えを巡らせた。しかし戦士としても一人の人間としてもまだまだひよっ子の彼にとって親友を悩ませている問題はスキュラ級の幻獣よりも手強いものであり、当面の間は滝川と共に頭を悩ませる他に持てる手段はなかったのである。


ガンパレード・マーチでナニですな(笑)。

最近は若宮と滝川のコンビはいいっすね。
何となく若宮っていろんなことを「軍隊ではよくあること」で
すましてしまいそうな気がします。

いや、まぁ、こんなこともありますよ。
滝川15歳、若宮は固定17歳ですから、若いですから元気ですよ。
ええ、そりゃもう、いろんな意味で(笑)。


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