誕生日のその日は、熱帯夜―2―


 世界の左手が飛葉の重く湿った髪を梳き、その唇がゆっくりと首筋を辿る。脇腹から背中に滑る右手の動きに、飛葉の側筋が断続的な痙攣を起こす。いくつかの筋肉の流れが交差し、重なり合う一帯を掌でなぞると、それまでは世界の肩先に触れているだけだった飛葉の額が強く押しつけられた。まるで飛葉を焦らすかのように、世界の両の手は緩やかな速度で汗と水に濡れた肌の表面を滑る。

 熱く、甘い吐息が飛葉の唇からこぼれた。肉の快楽を求める本能が飛葉の身体を自由に操っているのか、世界の大腿部には熱に浮かされた飛葉の下腹部が、何度も押しつけられる。限界まで怒張した自身の陽物を世界のそれに絡めるように飛葉が動く。不意に息を飲み込むように止めると、飛葉はねだるような表情で無慈悲な恋人を見上げた。

 世界は飛葉に深い口づけを与えながら、その質感を確かめるように瑞々しい左右の果実を揉みしだく。括約筋が体内に没する辺りに世界の指が添えられた途端、飛葉の身体が弓なりに大きく反り返った。世界は円を描くように指先を動かしながら、熱を帯びながら小刻みに痙攣している集中線の呈を様している粘膜の表面だけをなぶり続ける。世界の肩先には更に強く飛葉の額が押しつけられ、背中にまわされた両腕の筋肉は激しい緊張と弛緩を繰り返し、その緩急のあまりに大きな落差が飛葉の身体の奥深くに宿る熱の高さを示しているかのように感じられた。

 世界の指がゆっくりと飛葉の内部に潜り込むと、飛葉は未だ慣れることのできない圧迫感と違和感に、思わず息を飲んだ。息を詰めて世界に身体を預けていた飛葉が、この上なく甘い吐息をこぼすのを合図に、世界は飛葉の奥へと進む。トリガーを引く要領で指を動かす度に、世界の背に飛葉の短く切りそろえられた爪が食い込み、心地よい痛みを生み出す。

 この日最初のセックスではないために、飛葉の身体は既に潤いを湛え、充分な柔軟性を備えていた。だが世界は執拗なほどの愛撫を行うばかりで、飛葉の望むものを与えようとする気配は微塵もない。複数の指先が思い思いの方向を目指して暴れるほどに、飛葉の欲望は粘膜の妖しい動きとなり、同時に世界ただ一人だけが知る扇情的な色香を全身に帯びてゆく。

「大丈夫か」

少し身体を離し、世界が飛葉に問う。飛葉は快楽に翻弄されたために潤んだ瞳で世界を見つめた後、激しく頭を打ち振った。

 飛葉の背を壁のタイルに押しつけ、その重みを預けるように世界は飛葉の身体を持ち上げた。そして飛葉の両足の自由を奪い、固さと大きさを増した彼自身を飛葉の体内深く埋め込んだ。

 少しずつ、けれど確実に身体を侵食される度に飛葉は喉を反らせた。飛葉の身体が慣れる毎に歩みを進めていた世界がようやく全てを収めきった頃、世界の首に両腕で縋り付いていた飛葉の唇が切迫を帯びた、途切れ途切れの言葉を紡ぐ。

「ちょっ……世界…………待……て……」

息と共に飲み込まれてしまった言葉は意味をなさず、体内から生まれ出ることが叶わなかった声は白い迸りとなって二人の腹を濡らした。

 悪戯を見つけられた子供のような表情の飛葉を宥めるように世界が額に口づける。すると、飛葉は安心したように再び世界に身体を預けた。

「もう……一度……今度は、あんたと一緒に……」

言葉の一つ一つを確かめるように、飛葉が世界に言う。

「わかった」

世界はそう答えると、飛葉の身体をきつく抱きしめた。


これは、ももきちに「生ケツ三部作」を煽った司書が
「描いたら、この先書いたろうやないの」と豪語して書いた
司法解剖所見風の創作です。
司法解剖所見風にしてみたものの、あんまりストレートな表現にすると
ギャグにしかならなかったので、ちょっとだけアレンジしました。
ああ、初期の頃の純情可憐な飛葉はどこにいったんでしょう……。
オヤジは手に負えらへんようになるし……(泣)。


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