共同製作の明暗 2


  一方、マルセルの私邸では食べられるジオラマ作りが佳境に入っており、ランディも忙しく立ち働いている。

「ランディ、いいか、コイツは速さと力が勝負だ。一気に伸ばすんだゼ」

「わかった、ゼフェル。いくぞー!!」

そして完成したのはごくごく薄い飴細工で作られたリボン。それを熱いうちに型で抜き、細かなウェーブをつけ、ゼフェルが本物とみまごうほどの花を作り上げる。

「ランディ、次はこっちだよ。このマジパンを耳たぶくらいの固さになるまでこねて、100gずつの固まりに分けてほしいんだ」

「よし、まかせろ」

丸められたマジパンはゼフェルが器用に果実の形に整え、マルセルが白いキャンディをかけていく。完全に乾いてからゼフェルがエアブラシで食用色素の吹き付け作業を数回繰り返し、本物そっくりの果物の完成だ。

「ゼフェル、ジオラマの土台ができたぞ。強度はこれでいいかな」

「おお、上等、上等。そんじゃ、パーツをつけていこう。ランディ、手伝ってくれ」

それぞれの得意分野を生かせるとあって、彼らは素晴らしいチームワークを発揮し、新人研修の作品は無事完成した。

◇◇◇

 宮殿の広間に搬入された作品を見て、全員が歓声を上げた。

「これは……、素晴らしい作品ですね。かの惑星の四季をこれほど見事に表現されているなんて、本当に驚きました」

「……見事なものだ」

「うむ、造型の見事さもさることながら、3人が力を合わせた成果が如実に現れている。ご苦労であった」

「坊やたちがここまでやってくれるとは、この俺様も予想できなかったゼ。たいしたもんだ」

「ほーんと、感心しちゃうねー」

「三人とも、本当に頑張りましたねー。私もとても嬉しいですよ」

 先輩守護聖たちが年若い守護聖の力作を口々にほめあげているのを聞き、ランディ、ゼフェル、マルセルも得意満面である。彼らは直径1メートルの土台を四等分し、惑星の四季を表現した。春の若草は綿菓子や飴細工を使用し、夏の海にはゼリーを流し込まれ、中には魚なども泳いでいる。秋の実りはマジパンに飴がけした木の実で表されている。木の幹にはクッキーを使っている。冬はパウダーシュガーが描き出す雪景色。一つ一つの細工が緻密であるだけでなく、全体のバランスにも優れている作品となっている。次にカラメル色の飴細工で作られたかごに、やはり飴がけされたマジパンで作られた惑星特産の果物が盛り込まれている。その一つ一つに確かな重量感があるばかりでなく、かぐわしい香りさえ放っている。

「これは俺たちが素晴らしいと感じたものの一つです。豊かな自然あって、とてもいい人たちの住んでいる星でした。そして技術も発展していました」

三人を代表して、ランディが作品を簡単に説明し、次いでマルセルが口を開いた。

「これは全部食べられるんです」

その言葉を聞いた他の六名は、再び感嘆の声を上げた。

「本当ですか〜、マルセル」

最初に声を発したのはルヴァの質問に、ゼフェルが答えた。

「おう。材料は全部マルセルが作った菓子で、俺が加工したんだ。結構、リアルな仕上がりだろ?」

「なるほど。それでランディ、お前はどこを作ったんだ?」

からかうようなオスカーの言葉に、ゼフェルが言い返した。

「ケッ、だから何にも知らない奴はこれだからよー」

「オスカー様。ランディはすっごく大変だったんですよ。花びらを作るための飴は熱いうちに強い力で素早く伸ばさなくちゃいけなくて、それをランディは全部やってくれたんです」

ランディを擁護する鋼の守護聖と緑の守護聖の姿に感動したルヴァは満足そうに、そしてしみじみと言った。

「何も言うことはありませんねー。満点ですよ、三人とも。皆さん、よろしいですね」

 その言葉にランディとマルセル、ゼフェルは抱き合って喜んでいる。そしてマルセルが晴れやかな笑顔で言った。

「それじゃ、皆さんでお茶にしましょう。みんなで食べれば、このお菓子たちもきっとすっごくおいしいですよ」

「えーっ、もったいないじゃないの、こーんなにきれいなのにさ」

「そうですよマルセル、何も食べてしまわなくても……」

「オリヴィエ様、リュミエール様。皆さんに食べてもらわないと、僕の仕事をちゃんと見てもらえません。大丈夫、見た目と同じくらいおいしいんです」

マルセルの得意満面の笑顔に促されるように、9名の守護聖はなごやかなお茶会を楽しむことになった。

 

蛇足――ルヴァの独り言――

 三人とも力を合わせて一つの物事をやり遂げる素晴らしさを経験し、守護聖として、そして人間として成長してくれることでしょうねー。本当によかった。それに比べて私たちときたら……。ジュリアスは強引すぎる計画と方法論を一歩も譲らずに貫こうとするし、クラヴィスは何に対しても関心を示してくれないで、早々に姿をくらましてくれたんでしたっけ……。ジュリアスは額に青筋を立てて怒ってしまって、結局私一人で課題を作って提出したんですよね。なんとかして二人を取りなそうとしても耳を貸してもくれなかった……。それが先輩の守護聖たちにばれてしまって、ひどく叱られてしまいましたっけ……。

 私は子どもの頃から宿題や課題の提出はきちんとしてきたし、周囲の人たちも高く評価してくれたものでしたから、あんな風に叱られたのは生まれて初めてだったんです。他の守護聖たちから「二人の諍いを収められない理由を説明しろ」と詰問されましたが、どうにもなりませんよ。子どもの頃の感情の行き違いが年齢と共に深まっているんですからね、あの二人は。先輩たちにどうにもできなかったものを、私にどうしろって言うんでしょうねー。ある意味ではゼフェルやランディやマルセルよりも大人気がないんですからね、昔から。そして分別がついていいはずの今でも。ゼフェルが私を『若年寄り』とか、『ジジィ』とか呼んだりするのも、長い間二人の間でオロオロしてきたことが原因で老けたからなのかもしれません。それに険悪な二人の様子を直視したくないと思ったためか、目も細くなったような気がしますよ……。

 はぁーーーーー。サクリアが消失した暁には、故郷に戻って心穏やかに静かな日々を過ごしたいですねぇーーーー。


『TVチャンピオン』という番組の菓子職人チャンピオンと、
モデラーチャンピオンの決定戦を見て書いた、珍しいほのぼの路線のお話です。
このお話を書いた頃は、あちこちの企業で新人研修が行われている時期で、
某企業で実施されていた新人研修をネタにさせていただきました。
相変わらず気の毒なルヴァですが、まぁ、こういう人はきっと、一生誰かの後始末をして暮らすんでしょうね〜。


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