相 棒 2


 ある日の曜日、チャーリーの店を訪れたのは鋼の守護聖・ゼフェルだった。器用さを司る彼が公園の露店に顔を出したのは、その日が初めてだったため、チャーリーは多少驚きながらも、自慢のセールストークと営業用の笑顔で紅い瞳の少年守護聖を迎えた。そしてチャーリーの隣でチビスケは

「イラッシャイマセ、ベンキョーシマッセ。エエカイモンシテッテヤー」

と、仕込まれたセールストークを発するのであった。

「ああっ、俺の……俺のメカ……。てめー、俺のメカを盗みやがったなー!!」

角張った小さなロボットを認めたゼフェルは、そう言うやいなやチャーリーの胸ぐらに掴みかかったが、その身長差ゆえに露店の店主に身体的ダメージを与えることはできなかった。

「ちょ……ちょっと、待ってください。このロボットはこの間、俺ンとこに迷い込んできたんです」

「そんで、おめーは持ち主を探しもしないでネコババしてんじゃねーか。うらぁ、立派な盗人じゃねーか」

「そんなこと言うても、どこにも持ち主の名前は書いてへんし、チビスケに聞いても言わへんし、どーしよーもあらへんやないですか」

「うるせー。コイツにはZR-5500って名前があんだよ。そんなダッセー名前で呼ぶんじゃねー!!」

「へ……ZR……」

「ZR-5500だ!!」

「はあ……」

 その後、ゼフェルがチャーリーに語ったところによると、行動面での学習機能をバージョンアップしたZR-5500が、その危険回避機能を発揮しすぎたためにゼフェルの作業室をいつの間にか抜け出してしまったこと、ゼフェル自身もZR-5500を探しはしたのだが女王試験の最中であったため充分な時間がとれなかったこと、私邸の周辺を中心に探索していたゼフェルに、チャーリーの店の常連客の一人であるマルセル――彼は主に、菓子とジュースを買いに来ていた――に、店先にいるチビスケと呼ばれているロボットの噂を聞いて訪れたのだという。

「わかったな、コイツは俺ンだからな、連れて帰るぜ。ったくよー、ダッセーこと覚えさせやがって、元に戻すのが一苦労だぜ」

ゼフェルはそう言うと、ZR-5500を小脇に抱えて立ち去ろうとしたが、チャーリーはその腕をむんずと掴み、ゼフェルに言った。

「それはあんまりですやん、ゼフェル様。チビスケはもう、俺の店のアイドルですんや。それにゼフェル様の作った高性能のロボットやったら、ここが危ないと思うたら勝手に戻ったんとちゃいますか? 戻らへんのは、俺んとこが快適やっちゅーことですわな?」

チャーリーは『高性能』という言葉に力を込めて言い、更に言葉を継いだ。

「つまり、作らはったんはゼフェル様でも、今は俺のほうがええっちゅーことちゃいますか?」

「なんだと!! てめー、ZR-5500を横取りする気かよ!!」

「そんな横取りやなんて、人聞きの悪いことしまへん。チビスケはゼフェル様にお返ししますけど交換条件がおますねん」

 にやりと笑うチャーリーの、海千山千を乗り越えてきた商人魂の迫力の前に屈したゼフェルには、チャーリーの出した交換条件を飲む他にZR-5500を奪回する方法は残されていなかった。

◇◇◇

 それから数日後、チャーリーの店にチビロボの代わりに派手なお迎えロボットがやってきた。ほぼ等身大のボディに紅白の派手な縞模様の衣装をつけ、三角帽子をかぶって胸の前で大太鼓を叩くそれは、にこやかな笑顔で訪れる客を迎えている。賑やかな店主に劣らぬ程騒々しく愛想の良い公園の露店の二代目アイドルは『かいだおれ』という愛称で呼ばれ、人々に親しまれている。その賑やかさに閉口した光の守護聖・ジュリアスから多少の小言はあったが、『かいだおれ』は珍しい物が好きな女王と女王補佐官の庇護を受け、毎週日の曜日に笑顔を振りまくのであった。


何故か商人さんには『ウンコ座り』がとってもお似合い(笑)。
因みにゼフェルのロボットの名前は『ゼフェル-ロボット-5500』の略で、
最後の数字は当時、司書が使っていたパソコンの型番でした。


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