孤 軍 奮 闘 2


 そして決戦の日、メルは王立研究員でエルンストとオセロ盤を挟んで対峙していた。メルはクラヴィスに言われたように、占いに使う水晶球を持参していた。そしてランディ、ゼフェル、マルセル、ティムカが2人の勝負を見物するために集まっている。メルはいつものように4つの隅を与えられ、そして勝負が始まった。

 時を同じくして、闇の守護聖の執務室にジュリアス、オスカー、リュミエール、オリヴィエ、ルヴァと、ヴィクトールとセイラン、ティムカが集結していた。彼らは皆、エルンストとのオセロに勝てなかったのを快く思っていなかったので、メルを勝たせるための協力を拒むどころか、進んで協力を申し出る者もいた。クラヴィスが愛用している遠見の水晶にはオセロ盤が映し出されている。メルが最初のコマを置き、エルンストが次の手を打った。それを見てチェスを得意とするジュリアス、聖地一の博学を誇るルヴァ、戦略のプロであるヴィクトールが次に打つべき手を考え、それをクラヴィスがメルの水晶級に映し出す。それがクラヴィスの考えた、対エルンスト対策だった。

 数回のターンが終わった時、エルンストはいつもより時間をかけて次の手を打つメルの、その的確な対応に気づいたが、真面目な彼には、まさか守護聖と教官全員が自分の相手となっているなどとは、想像もしていなかった。彼はせいぜい、メルがオセロに関する本を読んだのだろうとしか考えていなかったのだ。しかし、数手先を見越したかのようなメルの行動に、少しずつ、しかし確実に追いつめられていった。

 その様子を見た6人の守護聖と3人の教官は、ゲームの主導権がメルが握ったのを見て、会心の笑みを浮かべた。

「しかし、まだ油断はならない。一瞬の気のゆるみを突くことなど、エルンストには造作もないことだ」

「そうですね、ジュリアス。この際、コマを全部取るくらいの気持ちで取り組まなくてはなりませんよ」

「お、ジュリアス様、ルヴァ様。エルンストがなかなか良い手をさしました。俺は次はここに打つべきだと考えます」

作戦担当の3人は、様々な可能性を踏まえた上で協議を行い、確実にエルンストの行く手を塞いでいく。

「まったく、たかがゲームごときに、ここまでするなんて、僕には信じられないね」

「ふ〜ん。セイラン、じゃあ、アンタ、どうしてココにいるんだい?」

「フッ、素直になれよ。エルンストの悔しそうな顔を見たいんだろ?」

オリヴィエとオスカーの言葉に、そっぽを向いて感性の教官は言った。

「……別に。退屈していただけですよ」

◇◇◇

 ゲームが終盤にさしかかり、エルンストの大敗はもはや確実なものとなった。エルンストが最後の手を打ち終わった時、エルンストの支配を示す白い円は、わずか4つしかなかった。メルは言うまでもなく、王立研究員に集合していたランディ、ゼフェル、マルセル、ティムカは抱き合って勝利を祝い、メルを胴上げして歓声をあげた。その様子を見たエルンストは、勝負に負けた悔しさよりも、年若い者たちの喜びの表情を見られたことに、喜びを感じるのであった。

「メル、よく頑張りましたね。今度ばかりは、私も完敗です」

照れくさそうに眼鏡に手をやるエルンストに、多少の罪悪感を感じるメルだったが、今はエルンストに勝てたことの方が嬉しかった。

「ありがとうございます、エルンストさん。メル……メル、とっても嬉しいです!!」

4人の見学者は、接戦を終えたばかりの2人に、心からの拍手を贈った。

 その頃、日頃物音一つしない闇の守護聖の執務室に集まった者が皆、勝利の鬨の声を上げていた。この作戦に最後まで抵抗を示していたリュミエールでさえ満面の喜びを、その美しい顔に浮かべている。そして、この部屋の主であるクラヴィスは、ほんの一瞬だけ満足そうな、けれど意地悪そうな笑みを浮かべたのだった。


そこまでして勝ちたいか!! と、思いますが、
聖地の大人げのない面々であれば、これくらいはするでしょう。
個人的にはエルンストみたいなガチガチの堅物をいたぶるのが好きです。


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