<<Back
カムイ & 上條 |
部屋の鍵が開いていた。 しかし、電気は点いていない。廊下を進みリビングに辿り着くと、ソファに座ってタバコを吸う一人の男の姿が見えた。 「来てたんですか」 静かな声で言い放つと、壁にあるスイッチに手を掛ける。 「点けるな」 「機嫌、悪いみたいですね」 「悪いってほどじゃないけど。ちょっと混乱してる」 男は少し笑いながら質問に応じる。 荷物をテーブルの上に置き上着をテーブルの背に掛けると、男の前まで移動した。前に投げ出された足を跨ぎ膝の上に乗って、肩の上に手を置く。 「それでここに来たんですか」 「そう、慰めてもらおうと思って」 「噂に聞きましたよ。台湾での夜のこと」 思わせぶりな口調で言うと、男ははにかんだ笑みを浮かべる。 「意地悪だな。何もなかったよ。誘われたのは事実だけれど、寝てる人間抱いたって面白くないから」 「ということは、相手が寝てなければ、どうなっていたかわからないということですか」 軽く鼻を摘むと、男は苦笑した。 「意地悪だなあ。だからこうして来てるっていうのに」 「でも下手をして彼に出くわす可能性だってあるんですよ? それがわかっているんですか」 強い口調で言うと、「わかってる」と返事がある。 「貴方との関係は絶対終わらせたくないから、十分気をつけているつもりだよ」 「それならいいですが」 小さく息を吐き出した唇に、男のものが重なってくる。久しぶりの感触を、存分に味わう。最初は戯れと衝動から始まった関係かもしれないが、一度知ってしまった甘さは忘れることのできないものとなった。 二人の間にある感情は、愛ではないだろう。もっと強く心の根底部分で繋ぎ合い、絡み合っている。 体に火を点けるためのキスを終え、向かい合わせに抱き合ったまま互いのものに触れ合う。もどかしげに服を脱ぎ局部だけ露にすると、かなり強引に体を繋ぎ合う。 「……あっ……」 鈍い痛みに苦しい声を上げる。男の首と背中に腕を回し、そこをかきむしることで痛みを堪える。 「ちょっと待ってて。すぐに良くなるから」 自分を含んで目いっぱい広がっている場所を指先で辿り、解すようにする。襞のひとつひとつを割りながら刺激を与れば、そのたびに男のものが内側へとずるずる引きずり込まれていく。 「まだ、痛い?」 額に汗を浮かべ、上ずった声が尋ねてくる。 「…もう、少し……んっ……」 自ら腰を浮かし回しながら、中にいる硬く熱い存在を許容していく。やがてそれが最奥まで辿り着いてやっと、一瞬息を吐き出すことができた。 「イイ?」 耳朶を噛みながらの問いに、頷きで応じる。 「イイ…イイ。もう、動いて…奥まで来て。突き上げて……」 甘い声で誘い煽り男のものに抉られる感覚を待つ。 繋ぎ合わせたまま体の向きが変えられ、背中を押しつけられる。下から穿たれる強烈な刺激に、腰が浮き、喉が反り返る。 「カムイッ」 柔らかい上條の髪が揺れる。 「上條さん…上條さん………」 我を忘れて行為に没頭するカムイの口からは、自分の下にいる男の名前しか出てこなかった。 上條は入社直後、カムイの担当をしていた。今よりももっとワガママで唯我独尊のカムイに、半ば強姦されるような形で始まった関係だった。 しかし、彼の巧みで強引な行為により、眠っていた上條の本質が目覚め、やがてその色っぽさに気づいた渡瀬により俳優としてのデビューを果たしたのだ。 仕事での関係がなくなり、上條に花菱という恋人ができたあとも、二人の関係は決してなくならない。 「カムイ…カムイ。そこ…そこ……っ」 「イイ? そんなに強く締めつけないで。苦しい…よ。食いちぎられそう……」 他の誰と抱き合っても、互いよりも強い快感は得られない。 体の相性を言えば、これ以上のものはなかった。 裏切っている後ろめたさは、抱き合っている間には生まれなかった。 誰にも告げずばらさず、永遠に続けていく秘密の関係――。 |